最新の学術情報基盤実態調査の結果によれば、日本の大学図書館におけるアクティブ・ラ
ーニング・スペースの設置率は、52.8%にまで増加した。だが、図書館におけるアクティブ・
ラーニングとしての活動は活発でなく、アクティブ・ラーニング・スペースは学習支援のた めの施設としての利用が中心である。大学図書館は、学習支援のみならず教育への直接的な 関与を求められているのが現状である。
現在。大学図書館に設置されたアクティブ・ラーニング・スペースにおいて実施される学 習は、ノンフォーマルエデュケーションに分類される。アクティブ・ラーニングの成功例と して広く知られているMIT TEAL STUDIO は、フォーマルエデュケーションとしてアクテ
ィブ・ラーニングを実施していた。施設としての空間的要件は相似な関係にある施設におい て、成功と失敗が別れている要因を明らかにすべく仮説の構築を行った。
そこで着目したのが、パノプティコン効果である。アクティブ・ラーニングの場としての
MIT TEAL STUDIOは、フォーマルエデュケーションとして授業を実施しており、教員と学
生の間には、「見る」「見られる」の関係ではなく、教師による一望監視の機構が成立してい る。そのため、パノプティコンにおける受刑者に例えられる学生のグループは、「規律・訓 練における個人を矯正服従の状態に保つ」ための個人となり、中央である教師からの指示に 従いやすい機構が成立していると考えられる。
それに対し、大学図書館におけるアクティブ・ラーニング・スペースでは、従うべき規 律に関しての違いが見られる。パノプティコンのモデルにおいて、監視人の役割を担う人 間は権力によって限定されない。つまり、学生チューターであろうと、図書館職員であろ うと一望監視の機構は成立する。
そのため期待される効果は、フォーマルエデュケーションとしてのアクティブ・ラーニン グの様な活動が成功すると考えられる。だが、フォーマルエデュケーションとして授業の規 律に従順なアクティブ・ラーニングとは異なり、ノンフォーマルエデュケーションでは従う べく規律が学習に存在しないことになる。その際に受刑者が従うと考えられる規律は大学 図書館の規律となる。図書館は静かに利用するというのは、一般的に知られた規律であると いえるので、規律に従順なグループが認知プロセスの外化となる発表や話し合いといった 活動を積極的に行うことは、規律との矛盾をはらむこととなる。よって、協働学習を前提と した空間における認知プロセスの外化が実施されにくい環境が構築されていると推測され る。
(指導教員 逸村裕)